「自然医学の基礎」  

自然医学の基礎

医学博士 森下敬一著 

美土里書房  1980年11月9日初版発行

全382ページ

 

 

 

自然治癒力の実体(P322~327)

 

では、自然治癒力と呼ばれているものの実体は、

いったい何なのか?実は、そのことについては、

まだあまりはっきりとは解明されていない。しかし、

それに近いものだと考えられるものはわかってき

ており、さらに、その働きを賦活したり、阻害した

りする決定的因子も、ほぼわかってきている。

 

前者の問題を扱っているのは、ピレマーという

者の研究であり、後者のそれは、アンドレボー

ンと私・森下の研究なのである。

 

つまり、この三つの学説を総合的に考え合わせる

と、自然治癒力の問題は、矛盾なく説明できるし、

実際の病気治しの場(臨床)でも、大いなる成果

得られるのである。

 

まず第一は、1955年に提唱されたピレマーの説。

 

ピレマーは、【プロパージンという酵素系】を見つ

たのである。これは血液中から見つけたもので、

一言でいうと、非特異的生体防衛酵素系といい替

えることができるものだ。

 

これまでに知られている酵素というのは、ある特定

の物質にだけ作用するものであった。たとえば、

液中のペプシンという酵素は、専ら蛋白にだけ

作用して、ペプトンという物質を生み出すという働き

のみをしている、といった具合だ。それで、酵素と、

その酵素の作用を受ける物質を、「カギ」と「錠前

(じょうまえ)」の関係として説明されることが多く、

またそれで事足りてもいた。

 

ところが、プロパージンと呼ばれる酵素系は、

非特異的であって、何にでも作用する性質をもっ

ているのである。

 

そういう酵素系が、血液の中に存在していること

を、ピレマーという学者が見つけ出すことに成功

た、というわけだ。

 

そのプロパージン系の働きは何か、というと、一言

でいえば「生体を防衛する力の総元締になっている」

というものだ。

 

ということになると、これこそ、われわれ自然医学

「自然治癒力」と呼んできた現象の実体となって

いるものの一つと見なしてよいはずのものだ。これ

まで、ややもすると、「自然治癒力」というと、現代

医学の立場に立った一般の人たちからは、非科学

的だとの批判が出ることも少なくなかった。けれど

も、決してそんなことはなく、レッキとした物質的

根拠が存在しているのである。その証拠の一つが

提示できる段階に研究が進んできたわけだ。

 

ついでに、このプロパージンに関しての、ピレマー

自身の考え方を見ておこう。はたして、それもさす

がに、きわめて妥当なものになっている。すなわち、

「プロパージンをより望ましい状態にもっていくため

には、マグネシウムが必要だ」という考え方なので

ある。

 

どんな酵素でも、それを活性化するために必要な

イオンがある。つまり、酵素の活性を高めるために、

とくに仲よくしているミネラルが一つか二つは必ず

あるのだ。この非特異的生体防衛酵素系にとって

は、マグネシウムイオンがそれに当たるわけである。

ということは、逆にマグネシウムがないと、せっかく

のプロパージンも活性化しない、ということでもある。

 

マグネシウムは、植物中に広く含まれている元素

である。とくに葉緑素に多く含まれており、それも

活性度の高いよい質のマグネシウムは、野草や

自然農法による野菜など、野性味の強い植物に

含まれている。だから、良質のマグネシウムを豊

富に含むそれら野草や自然農法野菜を、食物と

して摂れば、プロパージンは大いに活性化される

わけだ。

 

なお、マグネシウムイオンと同様、プロパージンの

活性化に欠かせないのは銅イオンである、という

こともピレマーは指摘している。銅イオンは、小魚

貝類に多く含まれてる。

 

私どもの自然医学理論は、“いわゆる菜食“の考

え方とは異なって、小魚貝類を摂取する意義を大

いに認めているところが、大きな特色の一つにな

っているのだが、このように全く別の角度からの

研究によっても、われわれの考え方の正当性が

裏づけられたわけだ。

 

ちなみに、小魚貝類とくに貝類は、「緑の血液」を

もっている。赤貝などは赤い血液になっているが、

あれは赤い色素が少し含まれているだけで、ベ

ースは緑の血液であることに変わりはない。また、

発生学的に貝類よりも下等な動物の血液も、や

はり緑である。そして、その血液の“緑“を生み出

しているものが、銅イオンなのである。

 

私どもは、自然医学の理論から、「健康体ならば、

浅い海で手づかみできる小魚貝類は摂ってもよ

ろしい。むしろ必要である」という考え方を引き出

し、提唱してきているわけだが、ピレマーのプロパ

ージン説の立場からも、この考え方が妥当である

という裏付けを得たわけだ。

 

なお、ピレマーはプロパージンに関して、いろいろ

な研究をおこなっているが、その中の一つに、プ

ロパージンの大量投与によって、ガンを治した、

というケースがあることも報告している。たとえば、

死刑囚から志願者を募り、彼らの体にガンを植え

つけた上で、プロパージンを大量に与えたら、

ガンは消えてしまった・・・というのが、それ。

 

このように「消ガン現象がおこった」ということは、

ガン撲滅ではなくて、まさしく本当にガンを治癒す

る効果が現れている、ということである。

 

プロパージンが、自然治癒力の実体であってみ

れば、そのような効果が得られるのも、むしろ当

然の話といえよう。いずれにしても、プロパージン

の意義は、今後とも大いに重視していかなければ

ならない。

 

 

 

 

第二は、アンドレボーザンの説。これは、1959年

に提唱されている。

 

農学者であるアンドレボーザンは、[土壌と牧草の

中の無機元素のバランスが、われわれの健康に

決定的な影響を与えている]と指摘している。

 

少し具体的にその研究内容をみてみよう。

 

土の中に含まれているミネラルのバランスの崩れ

は、植物中のバランスを崩してしまう。そして、それ

を食料として摂る動物体の健康障害を引き起こす、

というわけ。

 

アンドレボーザンは農学者であるから、牛(乳牛)

を研究対象にして、このような結論を引き出して

いる。「牧草」のミネラルバランスの崩れは、ウシ

の「血液」のミネラルバランスを崩す。血液のバラ

ンスが崩れれば、必然的にそのウシの分泌物で

ある「牛乳」のミネラルバランスがおかしくなる・・・

というように、ミネラルのアンバランスの連鎖反応

を追跡している。

 

そして、人間の健康の崩れのルーツも、土そのも

のの成分のアンバランスにある、ということを指摘

している。

 

農学者であるから、根源を土に求めているわけだ

が、食物次元を問題にするわれわれも、その「食

物の質」と、「土の質」とは切り離して考えられない

ものだから、このような考え方も、大いに考慮して

いかなければならない。ふつう、医学の問題という

と、得てして、人間の体にだけ問題を限定して考え

がちだが、そうではなく、「食べ物に問題がある」

さらに「その食べ物の依って来る土の質に問題が

ある」というように、より根源的に考えていく態度・

感覚をもたなければならないものだ。アンドレボー

ザンの考え方は[土とわれわれの体は一体であ

る]という発想であって、大変にダイナミックな研究

といえる。非常に優秀なよい研究だと、私は考え

ている。

 

そういう発想のもとに、アンドレボーザンもいろい

ろな研究をおこなっていて、興味深いものが多い

が、その中でも、土壌の質に関することでここで

とくに取りあげておきたいのは、「農薬(特にカリ

肥料)を用いることによって、植物(農作物)の成

分からマグネシウムが抜け落ちてしまう」といって

いる点だ。しかも、「それが発ガンにつながる」と

まで、大胆にいい切っているのである。

 

ここに至って、マグネシウムの欠乏に一つの焦点

がある、ということで、先のピレマーのプロパージ

ン説とつながってくる。また、どちらの説も、「発ガ

ン」を問題にしている点でも共通しているが、実際

に、発ガン理論としても十分に通用するダイナミッ

クな理論といえる。

 

 

 

 

そして、第三は、わが自然医学の根底をなしてい

る革新血液理論(森下理論)である。

 

この革新血液理論は1960年に提唱したもの。

その理論から、病気(慢性病)とは何という核心を

一言でいえば、[食物、消化、血液の異常によって

もたらされる全身の失調、それが慢性病である]

ということになる。

 

もう少し具体的にいうと、慢性病が発生するのは

次のようなメカニズムによる。

 

まず、動蛋食品や精白食品といった人間本来の

食性に反する食物を摂ることによって、腸の中で

腐敗現象がおきる。その結果、腐敗産物(アミン、

アンモニア、フェノール、硫化水素など)が、腸の

中で自家生産される。その際、同時に病的ビール

ス(毒素)も生み出される。つまり、フローラが混乱

するのだ。

 

次の段階として、血液に異常がおこる。要するに

血液が汚染されるのだ。

 

さらに次の段階で、体細胞に障害がおこる。血液

の汚染がもとで、組織に炎症がおこるのだ。腫瘍

も本質的には炎症なのだから、発ガンのカラクリも、

以上と同じものと考えてよい。なお、体のどの部位

の組織に炎症や腫瘍がおこるかは、人それぞれ

体質の違いによって異なる。発生場所は違っても、

炎症であるという本質は同じなのだ。

 

ということになると、ガンを含めてすべての慢性病を

治すことは、少しもむずかしいことではないはずだ。

大もとである食事を正せばいいのである。

 

すなわち、未精白の雑穀を主食にし、野草、海藻、

発酵食品を積極的に取り入れた野菜中心の副食を

摂ることによって、血液をきれいにすれば、炎症

(腫瘍)は必然的に消える。そのことがすなわち

消炎・消ガンなのである。

 

 

 

 

以上に紹介してきた三つの理論を総合的に考えて

いけば、なぜ、慢性病が発生するのか、とくにどの

点に決定的な問題があるのか、というようなことが、

浮き彫りにされるはずだ。

 

ピレマーの説、アンドレボーザンの説、そして森下

理論という三つの考え方を総合的に見ていけば、

大体まず間違いのない基本的なモノの考え方が

でき、したがってガンをはじめとした慢性病の治療

方針を誤りなく立てることができるはずである。

すなわち、自然治癒力を増強せしめる実際的な

方法が確実に見つけられるのである。

 

 

 

 

 

(以上、文字は本文のままですが、色付けやアンダ

ーラインは大事なポイントを分かりやすくするため

私が後付けしたものです。)

 

 

 

 

 

 

本日は以上です。ありがとうございました。